Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


「航空の歴史を遺産に」カンタス・ファウンダーズ・ミュージアムの本気を見た

2024/03/01 航空機・観光地・航空会社

カンタス・ファウンダーズ・ミュージアム(QFM)は、1996年にカンタス航空創業の地クイーンズランド州アウトバック地方ロングリーチに作られた航空博物館です。運営するにあたりカンタス航空が最大の支援をしており、運営形態としては企業博物館では無く、非営利団体が管理しています。

2002年には室内展示館ができ、ステージ2が始まりました。2020年には、ステージ3の改修を経て、屋外展示機に大屋根が設置されました。亜熱帯の日差しから4つの機体を護ってくれています。また、夜間には機体を背景に音と光のショーも始まりました。

ブリスベン空港を飛び立ったカンタスリンクのDHC-8-400は緑の大草原がひたすら続く大地を飛び続けて途中ブラッコール空港を経由し、ロングリ-チ空港22滑走路に着陸しました。ターミナルビルに到着する寸前に旋回すると、大屋根の下のボーイング747-238Bが姿を現します。横には、ボーイング707-138Bも全体を見せています。

ターミナルビルからもすぐのミュージアムを訪問すると、シニアキュレーターのサラ ジョンソンさんが迎えてくれました。この場所は、展示館、ヘリテージ館とそして大屋根の航空機展示施設で構成されると教えてくれます。

まずは、展示館から見てほしいとのことで、戸外から涼しい館内へ。カンタス航空の多くの就航地ポスターの掲げられた受付、売店とレストランの見える場所を通り、シアターへ。スクリーン横の旧塗装のボーイング747-200B、747-400とDHC-8-400の大型モデルが置かれている中でゆったり座ってカンタス航空の創業期の映像を見ることができました。

室内展示の様子とキャプテンクックラウンジ

隣は、イベントスペースになっています。ジョー・シャノンの部屋と言って、博物館設立に貢献した地元の方の名前を名乗っています。一角にボーイング707-138Bの絵画作品とともに、俳優ジョン トラボルタの映像が流れていました。トラボルタは、カンタス航空のボーイング707を購入したことでも知られ、2002年にカンタス航空のアンバサダーに就任しています。

別の部屋は1940年代から2000年代までの制服コレクションが置かれています。マネキンが、過去からの制服を着て部屋の壁際に並んでいるのです。「看護師や軍服のような外観のものから、50~60年代に丈が短くなり、ポリエステル素材が増えました。1970年代にはフィジーやハワイ線の専用のものもできています。以降は、スーツデザインのものが増えました。また、1990年代以降にはバラリンジ社との提携で、アボリジニに敬意と表したデザインも現れました」と聞かせてくれた。

制服コレクションは人形にまで及んでいる。「元カンタス航空客室乗務員サラ・アンブレヒトのバービーコレクションが貸与されたものです。ここでは、1959年に日本人客室乗務員が着物サービスをした時のものがあります。私のお気に入りは、コロナ禍で防護服を着用した人形なんですよ」と聞かせてくれた。

ボーイング747ジャンボジェット初期のアッパーデッキに作られたキャプテンクックラウンジが再現されていました。当時のファーストクラス旅客は座席に座り続けることなく、螺旋階段を上って2階に上がり、ラウンジを利用することが出来ました。

そこは、社交場のように華やかで賑やかな空間です。当時は煙草の煙が揺れる中で、世界を旅する上流階級の人々が集いカクテルを味わったのでしょう。 船で冒険したキャプテンクックにちなんで「航空機とはいえ、船の中を模して海中の写真もあります」とのことでした。

カンタス航空初期のAVRO機

Avro 504K はカンタス航空で初となる商用航空機で、5 年間使用されました。100 馬力のサンビーム ダイク エンジンを搭載し、パイロットのほかに最大2名の乗客を乗せることができました。木製機材は、館内の展示が相応しいですね。「もう一機は、シドニーのカンタス航空本社ロビーで展示されています」とのこと。

ブライスさんの案内で屋根付き屋外展示でジャンボを見る

鳥のさえずりを聴きながら航空機を見学できるのも素敵な体験です。チーフツアーガイドのブライス・ポンズフォードさんが機体の案内をしてくれました。

1979 年にボーイングからカンタス航空に納入された「ボーイング747-238B」の VH-EBQ は、西オーストラリア州とバンバリー市宣言 150 周年を記念して「バンバリー市」と名付けられました。2階へ向かう螺旋階段も残され、当時の空旅を思い浮かべることができます。当時ラウンジのあったアッパーデッキには、広い空間が残されていました。

左翼の前では、V-Podを呼ばれる5番目のエンジンを輸送する吊り下げ輸送の状況も教えてくれました。

ボーイング707を見る

「ボーイング 707-138」のVH-EBAは、カンタス航空がボーイングから購入した 13 機のうちの初号機で、オーストラリアで登録された最初の民間ジェット機になります。プロペラのスーパー コンステレーションに取って代わり、カンタス航空の海外路線での飛行時間を実質的に半分に短縮したことにより、オーストラリア人に初めて「時差ぼけ」をもたらしたといいます。

その後、サウジアラビア政府機などで登録され、カンタス航空が買い戻した機体であり、機内はVIP仕様の重厚な家具が随所に残さています。自分が飛行機のオーナーになって、世界ツアーに出掛けるロックスターにでもなったような気分を味わうことができます。

ロッキードスーパーコンステレーションは展示室に

「ロッキード 1049 スーパー コンステレーション」VH-EAMは、1947 年から 1955 年までカンタス航空が独自の長距離サービスを確立したシドニー・ロンドン間の路線を飛んだ航空機を再現しました。1953 年にアメリカ海軍のために建造され、その後貨物機として使用されていたもので、機内は座席が一部残され、他の空間は展示スペースになっていました。

愛らしいDC-3の姿

1944 年にアメリカで C-47 として誕生し、1944 年にオーストラリア空軍に引き渡された後、2012 年にカンタス エンパイア航空(QEA)の航空機となり、VH -EAP として民間規格に改修された「DC-3」もあります。座席は取り払われているために、後部ドアから機内を眺めますと、斜めの床がより強調されて感じます。他機と比べると小さいですがシルバーの機体は控えめで愛らしいです。

カタリナ水上機の雄姿

フライングボート「カタリナ」は、1943年に戦時中の民間航空輸送を担う目的でカンタス航空がパースに5機を配備し、セイロン(現スリランカ)まで片道平均28時間、直行便で世界最長の定期航空便を運航し、VIP旅客や特別郵便、急送品を運びました。黒い機体は旅客機らしくありませんが、重厚な雰囲気を醸し出しています。この機体は、屋内展示館の横に置かれています。

創業時格納庫展示館で笑顔を見せるサラさん

「デ・ハビランド DH61 ジャイアント・モス “アポロ”」のレプリカは、創業時の格納庫に眠っています。カンタス航空は、1929 年に2 機を購入しました。8人の乗客を乗せることができましたが、カンタス航空は前部座席を取り外し、トイレを設置し利便性を誇るオーストラリア初の旅客機となりました。デ・ハビランド DH50 のレプリカも並び、創業期を彩ります。

ボーイング707VIP仕様の機内

このカンタス・ファウンダーズ・ミュージアムはブリスベンから、一日1便の航空機に搭乗し、1泊することが必要なことからわざわざ遠くに出向く感覚であることは間違いありません。それでも、ロングリーチという「奉仕の手を差し伸べる」というカンタス航空のサービスの神髄が眠る小さな町に滞在するのもいいものです。夜になると周囲は無音の世界が広がります。

レストランさえ少なく、食事に向かうにも無料の車が用意されるなど、優しさが感じられる場所でした。2日目、朝からの訪問は館内のマクギネスレストランで朝食を摂ってみたいですね。航空に関連した装飾で、気分は盛り上がります。衣類、書籍や土産物の揃ったファウンダーズストアに寄ることも忘れてはいけません。

遠くても行きたい場所 受付も凝っている

創業期から近現代に至るまで、長距離飛行を実現してきた南半球のフラッグキャリアの伝統を系統的に見ることのできる経験は貴重なものです。

2024年は秋までの半年間で企画展示の草間彌生展が行われると聞きました。現代美術の旗手として日本人の展示が行われることを嬉しく思います。

QFMの入場料は次の通りです。屋内展示入場のみの「エコノミー」(AUD39、3,900円)、夜間のライトショーを含んだ「ビジネスクラス」(AUD99、9,900円)、屋外展示も含めた「ファーストクラス」(AUD150、15,000円)と全てのアクセスに機体の主翼を歩く体験、食事や記念写真まで含めた「キャプテンズクラブ」(AUD230、23,000円)まで4種類のチケットが用意されています。



取材協力:
カンタス航空              ⇒ 
https://www.qantas.com/jp/ja.html

カンタス・ファウンダーズ・ミュージアム ⇒ 
https://qfom.com.au/

クイーンズランド州政府観光局      ⇒ 
https://www.queensland.com/jp/ja/home


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