Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


クイーンズランド エア ミュージアムでオーストラリアの航空に触れたい

2024/07/24 航空機・空港・観光地

■QAMの入り口付近

クイーンズランド州は、オーストラリア大陸北東部を占める大きな州です。カンタス航空の歴史が始まった内陸部にロングリーチがあり、その後東海岸のブリスベンを中心に航空路が広がっていきました。

レンタカーでブリスベンの中心部から北へ90kmのサンシャイン・コーストを目指すと、M1道路を走れば1時間程でカラウンドラ飛行場が現れます。ここに目的のクイーンズランド エア ミュージアム(QAM)はあります。

入口で入場料AED25(2500円)を支払って中に入ります。ボーイング737-800の精巧なシミュレーターがあり、ブリーフィング30分と続く30分のフライトはAED139(13,900円)で体験できます。館内中央には、ジェネラルダイナミクスF111の流麗な機体が可変翼を畳んで置かれています。この機体の特別な見学コースがあります。航空機の機能、計器、制御装置の説明に続いて、今日のミッションの説明を受ける2時間半の体験はAED119(11,900円)です。

この受付のある展示館内には、オーストラリアの過去からのエアラインの歴史が模型や客室乗務員の制服などとともにずらっと展示されています。

モーリスさんの話し

■最初の館内の展示物

モーリス・リッチーさんの案内で館内を移動していくと、RAAF(ロイアル・オーストラリアン・エアフォース)に所属し、パイロットとしてロッキードP-2ネプチューンとP-3Cオライオンの両機を操縦していたと明かしてくれました。

パイロットの生の声を聞ける状況に嬉しくなりながら、進みます。彼の口からは航空マン人生が語られました。「ロッキードネプチューンには退役するまで4年間(2000時間)乗り、その後RAAFを去るまでの4年間(2200時間)ロッキードP-3Cオライオンを操縦しました。機種の違いはとても大きくて、農耕用トラック(ネプチューン)からスポーツカーの日産フェアレディZ(オライオン)に乗り換えたように感じました。

新人パイロットにとってネプチューンは非常にやりがいがある機体でした。大きなカーチス・ライト3350エンジンの始動には熟練を要しましたし、エアコンのない熱帯地方でこの飛行機を操縦するのはとても疲れることでした。それに比べて、オライオンは近代的で速く快適で、もちろん航続距離はネプチューンより長かったです。フライト・エンジニアがいたことは非常に助かり、パイロットの負担を軽減してくれました。とても良い機体に巡り合えたと思います。

オライオンのコックピットで

■オライオンのコックピットに座るモーリスさん

RAAFを退役した後の1981年に、私はトランス・オーストラリア航空に入社しました。1990年には、ガダルカナルを拠点に南太平洋を飛ぶソロモン航空のジェット旅客機の運航開始を手伝いました。ホニアラからグアム経由で宮古島へチャーター便を飛ばしたこともあります。更に1996年に台湾のエバー航空に入社し、ボーイング747-400、MD-11、そしてボーイング777-300ERを定年まで乗務しました」と、軍から民間への転換した航空人生を語ってくれました。

展示機あれこれ

■デハビランド カリブー

屋外展示場ではデハビランドDHC-4カリブーなどが現れます。モーリスさんに聞きますと、保存機数は97になると言います。うちMK.1スピットファイアとCA-18 MK.23ムスタング機はレプリカであり、その他は実機になります。

形状が面白い機体だと思ったのは、カナード翼のビーチクラフトスターシップ(N786BP)とオーストラリア製の農業用機トランサヴィア PL-12 エアトラック(ZK-CWX)です。

目玉の展示機DC-3

展示館の中心に置かれたDC-3-194B(VH-ANR)は大きく見えます。Airlines of N.S.Wと書かれたこの機体はミュージアムのアイコンにもなっており、イベント開催の時には、機体前方に用意された舞台で音楽会などが開かれます。夜間はライトアップされた機体の前で聞くオペラやジャズもいい時間の過ごし方です。



タラップも展示品

展示物の中には、1959年製造のカンタス航空ボーイング707用の可動式タラップもあります。1989年に使用されていたブリスベン空港から陸路運ばれてきたもの。現在でも乗降は可能で、昇ってみると館内を見下ろすことが出来て新鮮です。

CEOに聞く

■ポッドキャストのスタジオ内のガリーさん

QAM社長のガリー・ヒルズさんに話を聞くことができました。2022年からマッハワンというポッドキャストの音声プログラムを制作しており、オーストラリアの様々な航空関係者との会話が収録され、公開されています。館内には収録スタジオも用意されていました。

ガリーさんは、「本館の使命は、オーストラリアの航空遺産を保存することです。この博物館には、オーストラリア最大かつ最も多様な歴史的航空機のコレクションのほか、航空エンジン、工芸品、写真、書籍、参考資料などの大規模なコレクションが収蔵されています」

創業時の展示機

「1974年に政府が払い下げたキャンベラ爆撃機を展示したことから始まったQAMの歴史は、2024年で開館50周年を迎えることから、式典などの準備で忙しくしています。将来は、全ての航空機を屋根の下で保管したいですね」と笑顔で話してくれました。ライブラリーの蔵書も圧巻です。全てのコレクションはデジタル化されており、一例では「カンタス航空」で検索して出てくる資料数は2300を超えます。

書庫もある

この博物館の見どころは、実機の展示だけでなく、体系的に蒐集された航空機のデータにもあるといっていい。書庫の資料だけではなく、展示機の解説も充実しており、ホームページ内の改修機の記録などを見ると、相当の労力をかけていることがわかります。オーストラリアの航空史と航空機に興味ある人全てにお勧めしたい価値ある博物館です。

大自然の中を帰路につく

素晴らしい訪問を終え、ブリスベンへの帰路につきますと往路の道すがら「Look out」の看板を見付けて気になっていた場所に近付きます。日没までの時間がありましたので、車のハンドルを切ってみました。目指すは、「ワイルドホース・マウンテン・ルックアウト」です。グーグルマップでは、博物館から26kmで21分の距離しかありません。M1道路のすぐ脇のような場所です。

駐車場から息を切らせて登り道を700m進んだ甲斐がありました。360度の素晴らしいパノラマを見ることが出来る展望台に着いたのです。周囲にはグラスハウスマウンテンなど特異な形状の山が並んでおり、映画のロケにでも使われそうな場所です。古い映画ですが、「未知との遭遇」が撮影された米国のデビルス・タワーに似ていなくもありません。

2つめの展望台

思わぬレベルの高い観光地の出現に、嬉しくなって更に展望台を探します。「グラス・ハウス・マウンテンズ・ルックアウト」が見つかりました。ここもマップでは15kmで19分と容易に到達できました。こちらは車で展望台まで行くことが出来ます。別の角度からの山容は、夕陽を受けて緑が映えて美しく光っていました。

美しい自然と大好きな飛行機、欲張りに楽しむならクイーンズランド州へ行きたいですね。

協力:クイーンズランド エア ミュージアム ⇒ https://www.qldair.museum/
クイーンズランド州政府観光局 ⇒ 
https://www.queensland.com/jp/ja/home




Koji Kitajima(きたじま こうじ)


日系、外資エアライン計4社で30年以上勤務し、旅客、貨物業務を空港と営業のフィールドでオールマイティに経験しました。航空ジャーナリストとして世界の航空の現場を取材し、その内容をわかりやすく伝えます。航空旅行の楽しさを「Avian Wing」ブログにて発信中。航空ジャーナリスト協会に所属しています。



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