Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


国産空飛ぶクルマのテスト飛行試験場公開で商用化を目指すSkyDriveの未来を見た

2026/01/31 航空機

■山口試験場の海側試験飛行場に姿を見せたSkyDrive2号機

次世代モビリティとして世界中が注目する「空飛ぶクルマ」。日本を代表する開発製造会社である株式会社SkyDriveは、2028年の事業化に向けた認証取得段階に差し掛かっています。

山口県で行われている試験飛行の現場で、開発の指揮を執る執行役員の福原裕悟(ふくはら ゆうご)氏と、製造を担う株式会社Sky Works社長補佐の今村元寿(いまむら もとひさ)氏に、その独創的な技術と量産化の舞台裏を詳しく聞きました。

山口の地で進む試験飛行

■試験場には格納庫が用意されている

山口県阿知須市にある、やまぐちきらら博記念公園内2050年の森にSkyDriveの山口試験場はあります。ここには海側・陸側の試験場2つと格納庫が設置され、試験飛行データの蓄積が行われています。

当日は生憎の強風でデモフライトは中止となりましたが、開発指揮者の福原氏からは順調な試験飛行の進捗状況を聞くことが出来ました。

世界を驚かせる独自技術。球面配置ローターの狙い

■報道陣に公開された試験機の様子

SkyDriveの試験機「2号機」を目の当たりにすると、そのコンパクトな機体に12基ものモーターとローターが配置されていることに驚かされます。一般的なヘリコプターとは一線を画すこの設計について、福原氏は次のように解説します。

「我々の空飛ぶ車は、12基のモーターとローターを回転させて推力を出すマルチコプタータイプです。最大の特徴は、ローターを平面ではなく球面状に配置している点にあります。平面配置では機種を左右に振るヨー軸の制御力が弱くなりがちですが、球面状に角度をつけて配置することで、直接的な制御力を生み出し、高い安定性を実現しました。これは我々が特許を持つ独自技術です」

この12基のモーターは、飛行制御コンピューターによって独立して回転数がコントロールされます。可動部を極限まで減らし、モーターの回転数だけで上昇、下降、前進、旋回を行うため、構造が非常にシンプルであることも大きな利点です。

徹底した軽量化と航空機基準の安全性

■格納庫に収められた試験機1号機の様子

機体重量は約1.5トンと、中型乗用車並みの軽さを誇ります。この驚異的な軽量化の裏には、炭素繊維複合材(CFRP)とアルミ合金の高度な組み合わせがあります。

「部品点数は約1万点。ヘリコプターが10万点、大型旅客機が300万点であることを考えれば、いかにシンプルかが分かります。部品が少ないことは、整備性の向上とコスト削減に直結します」と福原氏は語ります。

安全性についても、航空機としての厳しい基準をクリアする必要があります。 「航空機には10のマイナス8乗、つまり10億時間飛んで1回事故が起きるかどうかという極めて高い安全性が求められます。

我々の機体は、たとえ複数のモーターが停止しても安全に着陸できる冗長性を備えており、その適合性を証明するための試験を積み重ねています」

自動車製造のノウハウを航空機へ。スズキとの提携

■製造会社Sky Worksの今村元寿氏から製造工場の説明を聞きました

設計がどれほど優れていても、それを高品質に量産できなければ普及は望めません。そこで重要な役割を担うのが、スズキの工場を活用して製造を行う株式会社Sky Worksです。同社の今村氏は、製造現場の現状をこう明かします。

「2024年3月から静岡県のスズキの工場で製造を開始しました。航空機の経験者と自動車製造のプロが一体となり、三現主義で課題を解決しています。1号機は2024年8月に、2号機は11月に完成させることができました。航空業界の常識ではありえないスピード感ですが、ジグの製作や部品調達に自動車の量産ノウハウを転用することで実現しています」

年産100機の製造ラインへ

■SkyDrive執行役員の福原裕悟氏

現在の工場面積では年産50機、さらに拡張すれば年産100機の体制を構築できるといいます。スタートアップの創造性と、伝統ある自動車メーカーの製造技術が融合し、世界と戦える量産基盤が整いつつあります。

都市内移動に特化したコンセプトの正解

スカイドライブが目指すのは、都市間の長距離旅ではなく、日常的な「都市内移動」です。翼を持たないマルチコプター形式を選んだ理由も、そこにあります。

福原氏はコンセプトの重要性を強調します。 「翼を持つタイプは長距離飛行で効率が良い反面、機体が重くなり、離着陸場も広く取る必要があります。我々のターゲットは都市内の30キロから40キロ圏内の移動です。

垂直に離着陸でき、コンパクトで静かな機体であれば、ビルの屋上など至る所に離着陸場を作れます。150メートル上空を飛べば、地上での騒音は自動車が通り過ぎる程度の65デシベル。これこそが、都市生活に溶け込むための最適解だと考えています」

2028年の実用化を見据えて

■陸側飛行試験場の様子 最長600mの飛行空間を取れる

現在、提携する大阪メトロやJR九州など、国内各地で2028年からの事業開始に向けた協議が進んでいます。海外からも、ドバイのチャーター会社から20機の受注を受けるなど、期待は高まる一方です。

「まずは今の技術で実現できる15キロ程度の航続距離からスタートし、バッテリーの進化に合わせて40キロ、それ以上へと段階的に性能をアップデートしていきます。最初の機体で型式証明を取得し、それをプラットフォームとして進化させていく計画です」と福原氏は未来を見据えます。

山口県の空を舞う試験機は、単なる実験機ではありません。数年後、私たちの街の上空を当たり前のように飛び交う「空のタクシー」の、確かな第一歩なのです。

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