Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


【ドバイエアショー】 加速する空飛ぶクルマ開発 HONDAの登場と米国・中東の存在感

2025/12/15 航空機

ドバイエアショーでの「空飛ぶクルマ」として知られる電動垂直離着陸機(eVTOL)の分野では、具体的な進捗が示され、技術開発の主導権を握る米国と、それを強力に支援する中東諸国の存在感が際立ちました。そこに登場したのは日本のあのメーカーです。

飛行実演で会場の注目を集めたJoby Aviation

■会場を飛び回るJobyの機体

今回のドバイエアショーで最も大きな出来事の一つは、米国のJoby Aviationが毎日約10分間のフライトディスプレーを披露したことです。

Joby Aviationは、TOYOTAやANAが支援していることでも知られる、eVTOL開発のリーディングカンパニーです。同社の機体が、世界的な大舞台であるドバイの空でその性能を実証したことは、単なる技術的なデモンストレーション以上の意味を持ちます。これは、eVTOLが夢物語ではなく、実用化の段階に移行しつつあることを国際社会に強く印象づけるものでした。

導入に積極的な中東の各都市

■Jobyのコックピット

特に、UAEをはじめとする中東地域は、都市交通の革新に積極的であり、エアタクシーサービスへの高い関心を示しています。Joby Aviationの飛行実演は、この地域への早期市場投入に向けた大きなアピールとなったことは間違いありません。

HONDAが描く未来のモビリティ

■ドバイエアショー室内展示場のHONDAブース

もう一つの注目すべき出来事は、HONDAがエアショー初出展でeVTOLの実物大モックアップを室内展示したことです。

自動車メーカーとして世界的な地位を確立しHONDA JETを成功させたHONDAが、この分野に本格参入し、国際的な舞台でそのビジョンを披露したことは、eVTOL産業全体に大きなインパクトを与えました。

HONDAのモックアップは、同社が持つ高い技術力とデザイン哲学を反映したものであり、来場者に未来の空の移動体験を具体的に想像させました。

HONDAチーフエンジニアの話

■モックアップに座る東さん

HONDA技術研究所のチーフエンジニア東弘英さんは話します。「アメリカの製造はHONDA JETのリソースも活用しながら2030年代早々にも商用飛行を開始する予定で開発を進めています」

存在感を増す米国勢と中東の市場開拓

■Archerの機体MIDNIGHT

他にも、2つのスタートアップがドバイエアショーで存在感を示しました。

米国のArcher Aviationは、自社のeVTOL機を室内展示し、関心を集めました。Archerは、中東地域での事業展開を積極的に進めており、特にUAEの首都アブダビで、エアタクシーサービスの導入に向けた戦略的な提携関係を築いています。また、アブダビを拠点とするAutocraftも独自のeVTOL機「E20⁺」を展示し、中東からも技術開発への意欲が示されました。

この動きは、eVTOL開発における現代の構図を明確に示しています。すなわち、技術開発を主導する米国のスタートアップ企業が、潤沢な資金力と革新的な都市計画を持つ中東の市場と強く結びつき、実用化を推進しているということです。

中東の事情

■Jobyの機体S4

中東諸国は、石油に依存しない経済への多角化を図る中で、先進的なモビリティ技術を積極的に取り込み、自国の都市を未来型のスマートシティへと変貌させようとしています。

Archerとアブダビ政府との協力関係、そしてサウジアラビアもeVTOL技術の導入を推進していることからも、中東がeVTOLの世界市場における重要なプレイヤー、そして初期導入の巨大市場となりつつあることがわかります。米国が主導する技術と、中東の強い市場開拓意欲が、この分野の成長を牽引しています。

eVTOLは新たなフェーズへ

■AutocraftのE20⁺

今回のドバイエアショーは、eVTOLが「概念実証」の段階から「実用実証」の段階へと移行したことを示す象徴的なイベントでした。

eVTOL市場では現在、航続距離が150km程度の都市内移動を目的とした初期段階の機体開発が先行しています。一方で、HONDAが目指すのは、400㎞を超える長距離飛行を可能にする次世代eVTOLです。これらの機体は、初期型の短距離移動とは異なる、地域間の移動や広域での利用を視野に入れており、2030年代前半の商用運航開始を目指しています。

eVTOLの開発は、米国の革新性と中東の強力な市場開拓意欲に加え、今後は日本の技術力が加わりさらに加速していくことは確実です。この領域の今後の進捗を注視していく必要があります。

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