【ドバイエアショー】COMACがドバイエアショーで示した世界市場への「フル・プレゼンス」は欧州進出への確かな足がかり
2025/11/29 航空機
ドバイエアショーにおいて、中国商用飛機有限責任公司(COMAC)の展示は、世界の航空産業界にとって非常に大きな注目を集める出来事となりました。
これまで欧米の巨大メーカーが独占してきたグローバル市場において、中国民間航空工業が単なる傍観者ではない、明確な挑戦者としての地位を確立しつつあることを、我々は素直に認めざるを得ません。
COMACの大胆な出展

今回のCOMACの展示は、単なる機体のお披露目といった従来型の参加形態とは一線を画す、極めて戦略的かつ全方位的なものでした。
彼らは世界レベルの航空ショーという舞台で、屋内展示、専用シャレー出展、地上展示、そしてフライトディスプレイという、まさに「フル・プレゼンス」と呼ぶべき大規模な展開を実行したのです。この徹底したアプローチは、中東、アフリカ、そしてその先にある欧州市場への本格参入に対する、中国の揺るぎない決意を示すものに他なりません。
世界水準の舞台で展開された全方位戦略

■COMACの屋内展示
COMACが今回採用した展示戦略は、既存の航空機メーカーの常套手段であり、国際的なビジネス展開の拠点として、非常に有効なものです。
大規模な屋内展示ブースでは、同社の技術力や将来的なビジョンを来場者に伝え、専用のシャレー(展示用別棟)は、世界中から集まる重要な顧客やリース会社、パートナー企業との機密性の高い商談を行うための重要な拠点として機能しました。
フル展示の覚悟

■地上展示機に近い屋外シャレー
特に注目すべきは、彼らが単に自社製品を展示するだけでなく、商業運航の実績と信頼性、そして飛行能力という、航空機ビジネスにおける最も重要な三要素を同時にアピールした点です。
このフル・プレゼンス戦略は、C909、C919が欧米の既存メーカーが独占する単通路機市場において、「信頼できる新たな選択肢」として台頭しつつあるという、非常に強力なメッセージを世界に向けて発信することに成功しました。
これは、中国の航空産業が、単なる国内市場の雄から、真のグローバルプレイヤーへと脱皮しつつあるという、時代の変化を象徴していると言えるでしょう。
派生形も登場

■CBJ機
COMACは、今回のドバイエアショーにおいて、3機もの機体を持ち込みました。地上展示エリアには、中国南方航空のカラーリングが施されたC919型機(B-658X)、そしてリージョナルジェット機C909をベースとしたビジネスジェット仕様のCBJ(COMAC BUSINESS JET・B-001X)が並べられました。
日々運航時間は増えている

特に、中国南方航空の塗装が施されたC919の展示は、すでに中国国内の主要な航空会社で商用運航に入り、日々、安全運航の実績と飛行時間を積み重ねていることを視覚的に示すものであったためです。これは、「まだ開発段階の機体」ではなく、「すでに実績のある商用機」であるという確固たるメッセージを、世界のエアライン関係者に直接伝えることに成功しました。
機内探索へ

■C919機内の中国南方航空 客室乗務員
また、C909をベースとするCBJの展示は、同社が単に大量輸送の旅客機市場だけでなく、高付加価値でカスタマイズ性の高いプライベートジェット市場にも注力していることを示しており、市場の多様なニーズに応える展開力があることを確認させました。
筆者が地上展示された機体の機内を見学した際、C919のキャビンはエアバスA320やボーイング737と同等の3-3配列で、最新のインテリアデザインが採用されており、商業運航機としての快適性が追求されていることが確認できました。
一方、CBJの機内は豪華な座席配置とベッドを含む内装が施され、VIP輸送に対応できるプライベートな空間が広がっており、機体の基本性能だけでなく、客室の質と多様な用途への展開力も兼ね備えていることが明確に示されました。
飛行展示も盛況

地上展示された2機とは別に、COMACはもう1機のC919型機(フライト専用機・B-658M)を持ち込みました。このフライト専用機が、エアショーの期間中、4日目まで毎日途切れることなく連日の飛行展示を実施したことこそが、今回の展示におけるハイライトの一つです。
飛行実績は、機体がすでに高い運航信頼性と飛行安定性を有していることを明確に示唆するものです。世界の主要なエアラインやリース会社が熱い視線を送る中で、C919は機動性に富んだ飛行を披露し、その性能を国際的な場で証明しました。
展示は大盛況

■中国南方航空の機内ビジネスクラス
飛行展示の成功は、カタログスペックだけでは伝わらない、機体の成熟度と実力を示す決定的な証拠となります。このデモンストレーションは、長年にわたり欧米のメーカーが独占してきた単通路機市場において、C919が技術的にも信頼できる「新たな選択肢」として台頭してきたという、強力なメッセージを世界に向けて発信するものとなりました。
欧州を目指す

■CBJの機内
ドバイという、欧州、中東、アフリカを結ぶハブで開催されたこのショーは、欧州進出を虎視眈々と狙うCOMACにとって、極めて重要な試金石でした。中東やアフリカの航空会社への売り込みを足がかりに、最終的には欧州の既存市場に風穴を開けるという長期的な戦略の一環であることは明白です。
航空業界世界地図を塗り替える可能性

■C919コックピット
今回の成功は、中国の航空産業が技術力、製造能力、そして戦略的なアピールをもって、ボーイングとエアバスの寡占状態に挑戦し、世界地図を塗り替えようとしているという事実を、我々ビジネス関係者は冷静かつ真摯に受け止めるべきでしょう。COMACは、今回のドバイエアショーを通じて、その存在感と潜在能力を世界に示したのです。
取材・文・写真:北島幸司
協力:COMAC → http://english.comac.cc/
取材・写真・文:北島幸司
Koji Kitajima(きたじま こうじ)
エアラインで30年以上勤務経験を活かし、航空ジャーナリストとして世界の航空の現場を取材した内容をわかりやすく伝えます。航空旅行の楽しさを「Avian Wing」商用サイトにて発信中。航空ジャーナリスト協会に所属しています。
