Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


再び空へ!航空機修復再生技術を披露するシドニーのHARSへ行こう

2024/02/06 その他

オーストラリアのニューサウスウェールズ州シドニー近郊、南方へ約100kmのアルビオンにあるシェルハーバー空港の一角にHARSアビエーションミュージアムはあります。航空機の修復を専門に行う施設であり、その過程を博物館として広く公開しています。

HARSのすごいところは、プロフェッショナルの人間では無く、ボランティアの手で修復を行う技術力の高さにあります。かつてアメリカ ツーソンで遺棄され砂漠の中で朽ち果てていこうとするロッキード スーパーコンステレーションを持ち帰り、実際に修復したことが実績として残ります。飛行可能な機体も多く、定期開催されるタルマックデー(駐機場開放日)にはフライトが披露されます。航空従事者経験者を含め約900名のボランティアが登録され、うち100名は積極的に活動していると言います。

今回、筆者はシドニー空港から鉄道を利用して再訪しました。シドニー空港国際線の隣駅ウォーライ・クリークより2時間ほど揺られてアルビオン パーク駅に到着します。ここからHARSは徒歩圏です。同館最大の展示物であるカンタス航空のボーイング747-438の赤い垂直尾翼が見えてきます。

大きな格納庫の前には、オーストラリア空軍のアクロバットチーム「ルーレッツ」の使用機アエルマッキMB-326がまさに飛ぼうとする形で空を向いて展示されています。館内に入ると、売店やカフェも見えており、5年前の訪問の興奮がよみがえります。案内役の広報担当カール・ロビンソンさんがようこそと迎えてくれました。

クライブ・ギボンズさん監修のカリブー試運転

飛ぶことのできる機体から案内してくれると言います。クライブ・ギボンズさんが加わり飛行可能なデ・ハビランドDH-4(A4-234)カリブーのエンジン試運転を見せてくれました。修復機は、定期的にエンジンを始動して良い状態を保つのだそう。格納庫からゆっくりとけん引された機体は深緑に塗られた重厚な胴体です。格納庫前のランアップエリアに引き出された機体のバリッバリッと音と立てながら勢いよく回転するプロペラの動きはスムーズです。時に離陸時に近い出力まで上げて、動き出さんばかりの迫力に気持ちが昂ぶりました。

ジム・サースタンさんが案内するサザンクロス

ジム・サースタンさんの案内でフォッカーFVIIB(VH-USU)サザンクロスレプリカの美しい藍色の姿を見ます。アメリカからオーストラリアへ飛んできた機体を再現したものです。1987年にレプリカ製造され、2002年の飛行で主翼が損傷したものの、2010年にHARSが取得して修復してきました。機内には、無骨な四角い機内には8席の美しい座席が残されています。1928年当時、この席は籐で編んだような座席だったと言います。窓の配列が独特横に長く、ここから下界を見たいと思わせます。その後、取材後の週末イベントの日にフライトを成功させたと聞くことができました。

優美なコンステレーション

カールさんの案内で見た飛行可能なカンタス航空塗装のロッキード スーパーコンステレーション(VH-EAG)愛称コニーは、前述の通り1990年に発見されてから米国で改修され、1996年に40時間もの飛行を経てHARSに来ました。飛べるコニーは世界でもブライトリングの所有機とHARSのものだけになるとのこと。

優美な機体は、機内も綺麗な状態で残されています。ファーストクラス10席とエコノミークラス26席の36席しかないこともあり、エコノミークラスでさえシートピッチが広く、快適な空の旅ができたのではないかと思わせます。ファーストクラスを更に前方に進むと、乗務員の区画で片側は2段ベッドが設置されており、もう一方は航空士の席になります。

ダグラスDC-4もある

次にカールさんとともにカンタス航空塗装DC-4(VH-EAY)の置かれる屋外に向かいます。飛ぶことはできませんが良好な状態で地上展示される機体も多くあり、ぎこちなく開閉するドアを開け、機内に入ることができました。座席は取り払われていますが、コックピットを含め、主要な機器は揃っています。操縦桿の真ん中に刻印される「ダグラス」の文字が美しいです。ここでは、4発のエンジンを機内から窓越しに眺めてみました。

コンベア440など

格納庫で静止展示されるTAA塗装のコンベア440メトロポリタン(VH-TAA)は、美しい機内の状態で残されています。南アフリカのロボエア所有機であり、2016年にHARSに来ました。革張りの黒いシートが並ぶ様子は、外国のリムジンバスの車内にいるようでもあります。また、良く整備された音楽ホールの座席のようでもある。

横には、セネラルダイナミクスのF111Cが置かれ、複座のコックピットも公開しています。オーストラリアの航空史を紐解くと必ず顔を出すのはこの機体です。1973年から2010年までの37年間も空を飛びました。

マーク・キーチさんと見るダグラスDC-3

1機のDC-3と2機のC-47が保存される格納庫を見ました。DC-3(VH-AES)はTAAの塗装が残り、機内では21席のシートが整然と並んでいます。ここでは、コックピットに座って同型の専門家マーク・キーチさんが説明を加えてくれました。一連の計器の配列を聞いた後、全体的にシンプルなシステムを強調し、手動の油圧ポンプでフラップを操作していたと動かして見せてくれました。

ロブ・グライナートさんと見る日本の大戦機

日本の大戦機の修復コーナーは必見です。案内役のロブ・グライナートさんによると99式艦上爆撃機(英語名VAL)の操縦席と後部胴体を修復中と教えてくれました。作業に際しては、「戦争がいかに恐ろしいものであるか伝える共感を得ることのできる修復を行うことが大事であり、若者の犠牲を思い起こさせるものとして機体を修復します」と語ってくれました。過去に、キ-61飛燕もあったのだが既にここには無いそうです。横にはP47Dサンダーボルトが磨かれた鋼板を見せ修復中であり、眺めながら次の展示場に向かいました。

デイビッド・バーンズさんが案内するボーイング747-438

HARSのとっておきの静止展示機ボーイング747-438(VH-OJA)愛称シティオブキャンベラを見せてくれました。1989年に商用飛行を開始したこの機体は、同年ロンドンからシドニーへの20時間9分の試験飛行を成功させています。退役後2015年にHARSに寄付された際には、シドニー空港からHARSまで12分の最短飛行を記録しているのです。HARS側は盛大に迎え入れ、当時のイベントの様子がつい最近のことのように写真や文章で残されています。パイロットのサインが記された747のモデルは誇らしげにディスプレーを飾ります。

屋外に置かれた機体の後部から搭乗し、後部のフライトレコーダーや、クルーバンク(乗務員休憩エリア)を見つつ、エコノミークラスの座席を眺めながら前方へ向かいます。

ファーストクラスのある最前方を眺めた後に、直線階段で2階に上がります。機内で階段を使用する機会が少ないだけに、過去のジャンボの搭乗経験がよみがえります。見学時は元カンタス航空機長のデイビッド・バーンズさんが案内してくれました。48年のパイロット人生で23,600時間の飛行時間記録があるそう。737、767を操縦し、3年半前までジャンボで飛んでいたと言います。発電機に繋がれたコックピットは「生きている」とのこと。PFDパネルを見ながら一連の操作系を教えてくれ、スラストレバーを動かすと実際に推力計は動いており、パイロットに向けたボイスアラームを聞かせてくれました。

室内の展示品も多い

閉館までの時間をカフェコニーで過ごし、HARS アルビオン パーク ショップで土産物を買い込みました。機体だけでなく格納庫内には多くの資料が展示されていることを忘れてはなりません。ロールスロイス マーリンV12エンジンや、デハビラント ゴーストの機首、ボーイングとエアバスのバイブリッド模型なるものまでありました。カンタス航空やその他多くの模型が並ぶ中で、2015年にボーイング747-438が寄贈された日の輝かしいフライトの記録も残されており、見逃せません。

将来に楽しみがある

滑走路を併設し、展示機を飛ばしてしまう生きた博物館は貴重な航空遺産です。今回の訪問では、6人の専門家に案内して貰うことができ、知識の財産となって心の中に残ります。

次回3回目の訪問は、トラボルタが寄贈するボーイング707-138がアメリカから飛来する将来の楽しみにしておこうと思います。


■HARS Aviation Museum ⇒ https://hars.org.au/

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