Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


日本一の富士山をめぐる3社共同企画の遊覧フライトツアーに参加してみた

2023/11/25 空港・観光地・航空会社

■富士山静岡空港を離陸するFDAのエンブラエルE-170

富士山静岡空港は静岡県の牧之原台地に地方管理空港として2009年6月に開港しました。2019年には県から運営事業権が移り民営化されています。東京、大阪、名古屋は新幹線で結ばれる為、国内線の路線は細く、どうしても国際線頼みの部分があります。同年には国際線旅客数で日本の空港で12位の31万人を超えており、歴史の浅い空港でのこの数字は健闘しているのではないでしょうか。コロナ禍で国際線は全便運休となりましたが、2023年になってようやく路線が再開し、またこれから数字が増えていくことでしょう。

富士山静岡空港に向かう

■空港内「Runway shop FSZ」でグッズが買える shopping before flightって楽しい!

11月上旬、空港を訪問しました。冬スケジュールに入ったために、ANAの新千歳と那覇線は季節運休するなか、地元のフジドリームエアラインズ(FDA)は、新千歳、出雲、福岡、熊本、鹿児島へ定期便を就航させています。国際線は、チェジュ航空がソウル線を毎日運航しており、中国東方航空は週に2便を上海と結んでいます。

空の駅と言えるターミナルビル

■空港そばの「石雲院展望台」から夕刻にターミナルビルを見る

ターミナルビルは2018年、国際線客の増加に合わせて1.5倍に増床し、1.8万㎡ほどあります。PBBはこのクラスの空港には充実しており、5基も設置されています。1階は、中央部のチェックインカウンターの両側に国内線と国際線の到着口があるという構造です。

2階に向かうと静岡の空港らしさが見えてきます。「しずおかマルシェ」と「メイドイントーカイ」では、地元の土産物が揃い、お茶どころにふさわしく、近隣に工場を持つ「伊藤園」が直営店舗を出しています。航空ファンには、「Runway shop FSZ」がお勧めです。空港コードをあしらったタグ、ノートやステッカーなどの商品や、FDAグッズも並びます。

3階に向かうと「ふじのくに空のしおり-3776」という名の地元産品のPRコーナーが現れます。隣県山梨のワインを含め日本酒や、高級茶葉を使用した日本茶の有料試飲ができる場所です。

2階中央部からエスカレーターで3階に向かうと、展望ホールが現れます。丸く愛らしい形の機首を見せるフライトシミュレーターゲーム機が置かれ、横の大型ガラスドアの向こうに展望デッキが広がっているのが見えました。「ふじのくに空のしおり-3776」の展示場と展望デッキは同じ3階にあり、繋がっていれば更に便利になるでしょう。

空港ビル担当者に聞く

■西側展望台から見ると、石雲院展望台方向が見える

富士山静岡空港株式会社の航空営業部 原崎友義主任によると、展望デッキはこの空港での一番のウリを全面に出そうと、ビルの向きから斜めに設置することで富士山が真正面に見えるような構造で建築されたと言います。

飛行機を見ることの出来る施設の存在を聞いてみると、「ターミナルビルを出て右に進んだところにある『西側展望台』は、滑走路12から離陸する機体が滑走路に進入する脇に作られています。ビル東側の『石雲院展望デッキ』は、滑走路の中央部に近く、離着陸機のどちらでもいい位置で富士山と共に機体を写真に収めることができます」と教えてくれました。

ここまで来たのであれば、名前の由来となった曹洞宗 龍門山の「石雲院」まで足を伸ばしてみることをお勧めします。下り道を5分も歩けば立派な山門が見えてきます。1455年創建の同院は、牧之原市の指定文化財になっています。また、車でのアクセスになりますが、滑走路30側の進入灯火のある横には「だいだらぼっち広場」があり、着陸進入機を捉えることができるそうです。

この空港のターミナルビル真下には東海道新幹線が走っています。日本初の新幹線停車駅のある空港ができれば利用者の利便性が高まること間違いなさそうです。いつの日か、その日が来ればいいなと思います。

原崎主任は、空港民営化後の誘客事業でFDAならびに大井川鐵道と共催の「富士山遊覧フライトツアー」に力を入れていると教えてくれました。実際にこのツアーはどのようなものか参加してみることにしました。

富士山に向かうツアー

■ツアーに使用されるJA15FJローズピンクのE-175 後方には富士山が…

マウンテンフライトをご存知でしょうか。これは山と言うだけで世界中の人が知るエベレスト山をネパールのカトマンズから周遊するものです。これを日本で富士山にて実施しようと考えたのがこのツアーです。

朝の時間帯のFDA遊覧フライトに加えて静岡の大きな観光資源である大井川鐵道の旅と組み合わせた乗り物好きが納得の日帰り旅です。空港を管理する富士山静岡空港株式会社がFDA、大井川鐵道と共に3社タッグを組んで出来上がったツアー商品になります。

参加してみた

■客室乗務員の片田憂佳さん

安定した視界の良い天候を考えて、ツアーの最初の集合場所は静岡駅05:20になります。空港の集合者とともに開館したばかりのターミナルビルで手続きは始まります。保安検査場を抜けると、ツアー係員がお握りの朝食とお茶を配ってくれました。参加した日には、機体番号JA15FJローズピンクのエンブラエルE-175が待ち構えてくれていました。

フライトは、07:30に出発、駿河湾を北上し、富士山西側で周遊を行います。帰路は伊豆半島西側海上を進み、静岡空港に戻る40~50分のフライトです。

富士山を間近に

■低い高度で富士山もくっきりと

11月3日の雲一つない快晴の中を本村智志機長の操縦で機体は順調に飛行していきます。富士山麓にある宝永山の紹介や、富士五湖の位置案内など機長のアナウンスも加わり、客室乗務員の片田憂佳さんは、「遊覧フライトですので景色を楽しんで頂くことを優先しており、航路の案内などでお客様との会話を楽しんでいます。今日の機長は30代であり、4人ともに若いクルーでご案内しています」と明るく応じてくれます。

高度は4,400mであり、富士山山頂よりも少し高い程度。雄大なパノラマが迫り、逆側の席の人には、着陸後に向かう大井川方面の山々の眺望が楽しめます。その後、機体はUターン。左席の窓にも富士山が広がりました。

東京から参加したという酒井さん父子は、新幹線でやってきて静岡駅前で前泊してツアーに参加しました。FDAのメンバー会員に入会しており、ツアーの告知を見て参加したとのこと。9歳のお子さんは「楽しいです」と言いながら満足そうに機窓を見入っていました。

バスで大井川鐵道沿線へ

■奥大井湖上駅が見える絶景

着陸後にバスに乗り込むと、FDA提供の搭乗証明書、グッズと空港ビルのエコバッグがお土産として置かれていました。機内で過ごす時間は短時間で、景色に集中して欲しくて、敢えてサービスは行わないとFDAは言います。機内サービス用のお菓子とお茶も袋に入っており、FDAの気遣いが感じられます。

空港地元の島田市では大井川に掛かる蓬莱橋で下車し、ギネス記録にも長さが登録されている木造歩道橋を渡りました。長い木の橋から「長生きの橋」と言われており、長さ897.4mだというのも「厄なし」と語呂が合うことから、縁起のいいパワースポットなツアー場所の選定になっています。

奥大井の絶景ポイント

■ランチバイキングの川根温泉ホテル

バスは奥大井へ向かいます。大井川からなる接岨湖のある奥大井湖上駅まで山道を歩き、約130段の階段を下る行程が待っていました。足のすくむような湖上駅から南アルプスアプトラインで奥泉駅まで30分の乗車体験ができました。湖上駅から目線を上に向けるとあたかも空を飛んでいる気分を味わうことができます。

途中の長島ダム駅でアプト機関車の連結、アプトいちしろ駅での切離し作業を見ることができました。参加者は客車から降りて機関車の近くに集まります。

川根温泉のランチバイキング

■旧型客車に乗ることができるレトロ旅

大井川鐵道の川根温泉ホテルではランチバイキングの時間が2時間ほど用意されていました。地元の食材を使った多くのメニューで大満足。食後に、日帰り入浴施設を有償で利用可能です。ゆったりしていると、ホテル前の川べりから北上するSLかわね路号が大井川第一橋梁を渡る走行シーンを見ることができました。ピーっという力強い汽笛が川辺をこだましていきました。

SLに乗車し旅は終盤に

■C10形8号機の雄姿を家山駅で見る

走行シーンを眺めて気分が高揚したところで、家山駅からSLの乗車時間になりました。C10形8号機で新金谷まで30分ほどの沿線の景色を楽しみました。特に昭和初期の旧型客車の乗車体験は貴重でした。客車の扉には「三等車」の文字が残り、手洗いの洗面台は角ばっており、郷愁を誘います。車内販売のカートも出て、グッズがたくさん売れていました。

バス車内でのアナウンスは流れるような心地良さで耳に届きます。空に鉄路にバスと高低差もあるダイナミックな旅の行程の満足度は高く感じます。2024年もツアーは組まれており、継続販売の様子。詳しくは「大鉄アドバンスのホームページ」で確認してください。





取材協力:富士山静岡空港/フジドリームエアラインズ/大井川鐵道


■公式サイト : 富士山静岡空港https://www.mtfuji-shizuokaairport.jp/
フジドリームエアラインズhttps://www.fujidream.co.jp/top.html
大井川鐵道https://daitetsu.jp/

Koji Kitajima(きたじま こうじ)


日系、外資エアライン計4社で30年以上勤務し、旅客、貨物業務を空港と営業のフィールドでオールマイティに経験しました。航空ジャーナリストとして世界の航空の現場を取材し、その内容をわかりやすく伝えます。航空旅行の楽しさを「空旅のススメ」ブログにて発信中。航空ジャーナリスト協会に所属しています。

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