ザ・ペニンシュラバンコクのAviationラウンジはホテルの中の航空博物館
2024/01/01 航空機オーナーのこだわり
ザ・ペニンシュラホテルの運営会社は香港上海ホテルズ。オーナーのマイケル・カドゥーリー卿は航空ファンなことで知られています。経営するザ・ペニンシュラホテルの世界11都市に展開する同ホテルのうち4か所に本格的なアビエーションラウンジを設けるほどに凝っています。今回はうち一か所のバンコクに向かいました。
ラウンジに到着してすぐにザ・ペニンシュラバンコクで案内頂いたアヌサン コンタンさんから驚きのひとことを聞くことができました。「マイケル・カドゥーリー卿のオーダーで展示されている航空機モデルの専属清掃員が定期的に香港からバンコクにやって来ます。バンコクのスタッフは誰も触らないのです」とのこと。それだけ大事にされているモデルはこの目で確かめてみたいじゃないですか。
ザ・ペニンシュラバンコクに向かう
■画像 ザ・ペニンシュラバンコク全景
河畔添いの高層ホテルにラウンジはある
バンコク ダウンタウンの高級ホテルの多くは市の中心部を流れるチャオプラヤ河沿いに建ちます。ペニンシュラバンコクも同様に、河沿い西側に位置する場所に1998年11月に開業しました。公共交通機関のライトレールシステムのBTSであればサファン タクシン駅で下車し、河を横切る橋を渡って徒歩15分で到達することができます。時間によっては河を横断するホテル専用のボートに乗船することができます。
河畔のリゾートホテル
■画像 ラウンジの銘板です
ヘリポート併設のラウンジ
バンコクスワンナプーム国際空港から40㎞離れたバンコクダウンタウンへ15分で到達できるのはヘリコプター輸送があるからです。空港からダウンタウンへの鉄道輸送が始まったとはいえ、ザ・ペニンシュラまで乗換が必要ですし、50分の所要時間が掛かります。車だと渋滞のあるバンコク市内への移動は1時間以上かかることがあり、ヘリコプター輸送は重要な足となります。
送迎顧客をホテルで最初に迎える場所がザ・ペニンシュラバンコク屋上のヘリポートになります。階下に併設されたのが最上階37階のAviation ラウンジであり、タイ王国の航空史を顧みることのできる数々の展示品が並びます。
ラウンジに入ってみる
■画像 案内役のアヌサン コンタンさん
ラウンジの様子
開業翌年の5月21日にできたこのラウンジの名称は「パリバトラ」というタイ王室のプリンスの名前が付けられました。1927年にタイで初めての航空機「ポリパット」の製造を指揮した人物の名前です。同機に搭載されたブリストル ジュピターVIバイラジアル星型航空機エンジンはこのラウンジの入り口で磨き上げられて展示されています。隣に圧倒的な存在感を持って来場者を喜ばせるのはダグラスDC-10やボーイング747に搭載されたGE社のCF6-50エンジンのファンローターのアッセンブリ部分。
新旧エンジンの比較展示が訪れた人の度肝を抜きます。すぐ横にはタイ国際航空へ14機導入されたボーイング747-400のコックピット計器と操縦かんが再現されています。
ジュピターエンジンとCF6が並ぶ入り口
■画像 本棚に展示品が並びます
このラウンジの開業記念銘板には開業当時のタイ国皇太子スホンビナンとホテルオーナーであるマイケル・カドゥーリー卿の名前が書かれ「タイにおける航空の精神に触れ、更なる発展と明るい未来に捧げる」と書かれていました。
ヘリポートの仕様を記した案内板には緯度経度が刻印され、最初の利用は1999年2月11日だったこと、高さ150.7mの位置にある26m✕26m のヘリパッドであることが記録されています。
新旧エンジンのコックピットでの操作方法を解説した文章もあり、博物館の恒久展示同様の充実度であるところに本気さを感じることができます。
タイでの航空史を振り返りますと、1911年1月31日にタイのロイヤルスポーツクラブにて最初に飛行したベルギー人飛行家のチャールズ・ルイス・バン・デン・ボーンが記録に残ります。彼の肖像画を見ながらタイの航空史に思いを馳せつつ、次の案内は遊び心のある手洗い場へと移ります。3つの個室はそれぞれ違うデザインを持ち、機内のように使用開始とともに赤いランプが点灯するような仕掛けになっていました。
メインラウンジのデスクは翼がモチーフ
圧巻のメインラウンジ
ラウンジ利用者が食事をしながらくつろぐ場所には、翼をデザインしたテーブルがあり、天井近くを1/32スケールの大きなタイ国際航空DC-6Bが浮かんでいます。1960年に最初に導入されたHS-TGA機です。他にはDC-3(HS-SAC)も飛んでいます。
こだわりはDC-3/C-47に搭載されたプラットアンドホイットニーR-1830エンジンのピストン部分から作った灰皿にも見受けられます。この部屋のこだわりぬいたデザインは、飛行機に造詣が深くなくても深く納得してしまうバランスの良さです。
眺望も素敵
■画像 タイ国際航空のDC-6です
すぐ横にはロイヤルタイ・エアフォース(RTAF)のノースロップF5EタイガーIIと別の場所にはブレゲー14のコックピットが再現されています。
最上階からバンコク市街の眺望はなんとも贅沢に見えるものです。真下のチャオプラヤ川を巡る沢山のボートがはるか下にうごめいているのがわかります。
壁面には、1930年代欧州からオーストラリアを結ぶ極東へのエンパイアルートと呼ばれた航空路図が掲げられています。当時の航続距離の航空機アームストロング・ホイットワース AW.15 アタランテでは英国からオーストラリアまで30もの寄港地のあることがわかります。この地図にあるルートを飛んでいたのは、今でも運航を続けるルフトハンザドイツ航空、KLMオランダ航空、ブリティッシュエアウェイズ、エールフランスの4社であり、当時のロゴマークが誇らしげに飾られています。
いざヘリポートへ
■画像 ヘリポートの様子
ヘリポートへ
小さなエレベーターに乗って屋上のヘリポートを案内してもらいました。光の入る室内はゆっくり移動しますので徐々に明るくなる中でヘリポートのある屋上の景色を想像しつつ乗るのは期待感でたかぶるものです。
ヘリコプター輸送はスワンナプーム国際空港近くのアドバンス アビエーション社と契約をしており、エアバス ヘリコプターのEC-135P2+がチャーターされます。5名まで搭乗可能で、55000バーツ(およそ22万円)の手配費用が掛かり、月に5~10回ほど稼働しているそう。屋上のヘリポートは遮る物がなく、ダウンタウンの光景が一望出来ます。バンコクでヘリポートのあるホテルはこのザ・ペニンシュラだけとアヌサンさんは胸を張ります。
コントロールルームまである
■画像 コントロールルームです
展示は続く
ラウンジに戻り、案内されたのはヘリコプターとの間で運航調整を行うコントロールルームです。レトロな作りのパネルが贅沢に使われ、実際にパイロットと交信もできます。搭乗客の到着を確認しつつ、サービスの用意をすることができる眺めの良い場所です。
フライングボートの緻密さ
■画像 フライングボート
廊下にも展示品
ラウンジ内の部屋を結ぶ廊下の装飾も見逃せません。1939年の表記とともに英国航空の前身、インペリアルエアウェイズのショートS-23Cフライングボート D-ADHL機の胴体カット模型が貼り付けられています。操縦席が上にある二層構造が良くわかります。客室にはベッドも用意され、寄港地の多い当時の航空旅行には時間が掛かる分ロマンがあったように思えます。
ヘリで向かおう
■画像 エンジンのピストンから造った灰皿
24年が経過した今も美しく磨き上げられた展示品の数々の姿は神々しさがあります。ザ・ペニンシュラバンコクに宿泊しただけではこの場所を見ることはできない特別な空間。いつかはヘリコプターをチャーターして空からホテルを訪問し、ラウンジを利用してみたいと思うのは筆者だけではないはず。タイ国が誇る航空遺産を魅せる場所のあることがとても嬉しかったです。
取材協力:ザ・ペニンシュラホテルズ
■公式サイト : https://www.peninsula.com/ja/default
Koji Kitajima(きたじま こうじ)
日系、外資エアライン計4社で30年以上勤務し、旅客、貨物業務を空港と営業のフィールドでオールマイティに経験しました。航空ジャーナリストとして世界の航空の現場を取材し、その内容をわかりやすく伝えます。航空旅行の楽しさを「空旅のススメ」ブログにて発信中。
航空ジャーナリスト協会に所属しています。