Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


熱波の欧州で3年ぶり開催! ファーンボロエアショー開幕

2022/08/15 航空機

世界一の欧州エアショー。毎年交互にロンドンとパリで行われ、偶数年の2022年はイギリスのファーンボロで開催されました。7月18日から22日までの日程で、コロナ禍の影響を受け、2019年のパリ以来3年振りの航空見本市としての目的を果たします。

通常期は平日月曜日に始まり、金曜日までの5日間でトレードショーというビジネス目的の見本市となり、週末は一般公開されるのが通例ですが、今年はコロナ禍収束が見られていないことから、多くの人が集まる一般公開日の設定はありませんでした。

今回のショーは、開催前週に会期初日から2日目にかけてイギリスに40℃にもなる熱波襲来で、鉄道も間引き運転がされる予報が流れました。18日朝から会場に足を運びましたが、さすがに来場者は2018年の時に比べて少ない気がします。

民間機の話題を中心にレポートをお送りします。会場に着いてまずは地上展示機を撮影し始めます。今回は、メインの展示館ホール1の前にはボーイング機が陣取っていました。昨年秋のドバイ、今春のシンガポールエアショーに続き777X(N779XW)にて地上と飛行展示を行います。

777X機内から見た折れ曲がった翼端と巨大なGE90Xエンジン

ナローボディ機は737-10(N27762)を持ち込み、地上と飛行で見せます。

エアバスはA350-900をハウスカラー(F-WWCF)で飛行展示し、ITA Airways(EI-IFF)で地上展示を行う用途に分けて2機持ち込みました。また、エアショー常連となるAir BalticはA220-300 (YL-ABJ)を今回も地上展示させました。

鮮やかなITA AirwaysのA350-900

ITA Airwaysは秋にも日本に就航の可能性が高く、会場では注目度も高かったです。全身ブルーの機体はとても目立ちます。地上展示の際に、コックピットのパイロットは、「この機体はまだ2回しか飛んでいないんだ」と言っていました。客室乗務員は「ウェルカム イータエアウェイズ」と話し、社名の発音もわかりました。ビジネスクラスは1-2-1の標準仕様で、広々とした空間にシックなカラーでまとまっており、ファッション都市に就航する航空会社らしい様子を見せていました。

ITA Airwaysのビジネスクラス

リージョナル機分野では、今では世界のリーディングカンパニーになったエンブラエルがE190-E2(2-RLET)『テックシャーク』とE195-E2(PR-ZIQ)『テックライオン』を地上展示し、E190は飛行展示にも使用していました。

エンブラエルE190-E2のフライト

CRJ機を世に出してきたボンバルディアは、Spacejet製造を凍結した三菱重工傘下の三菱航空機が部門買収をし、MHIRJとしてモントリオールで事業を継続しているのですが、過去のようにエアショー出展とはいかなかったようです。

ATRは、72-600型機(TS-LBH)をハウスカラーで地上展示させていました。初めて見るカラーは、機首部分に実際に読み込むことのできるQRコードを貼付し、読み込むと新しく装着を開始したプラットアンドホイットニーのPW127XTエンジンの紹介を見ることができるようになっていました。

ATR72-600の地上展示

会場の最奥では、多くのエアショーへの出展で存在感を発揮するカタール航空が3機機体を並べていました。ボーイング787-9(A7-BHF)とボーイング777-300ER(A7-BEB)はFIFA ワールドカップ カタール 2022特別塗装機に加えてカタール・エグゼクティブのガルフストリームG650ER(A7-CGB)が地上展示されており、自由に見学ができるようになっていました。

787-9には、新しいQ-Suiteを用意しており、777の旧型とともに業界標準となりつつある個室ビジネスクラスの進化を見せていました。

カタール航空では、このショー参加の為に15人の専属乗務員を派遣しました。
777で機内を案内する日本人乗務員の前田さんが派遣チームに入り、「ドーハでのラグビーワールドカップでお会いしましょう」とメッセージを発信してくれました。

会場内カタール航空機の並び

会場内では、広大な敷地を移動するのに多くの電気自動車が走っています。

かくいう筆者も、走っている車を見付けては乗せて貰いました。酷暑のため、積極的に来場者を乗せるように指導されているのか、目的地があるドライバー以外はすぐに「どちらまで?」と言ってくれます。この移動で風を受け、少しは暑さに耐えることができました。

また、エンブラエルの地上展示機の前では、アイスクリームをふるまってくれます。灼熱の空の下で食べるとより甘未が強く感じられ、何とも美味に感じます。

隣では、見慣れないサーブ340Bが翼を休めています。Cranfiled Universityと機体に描かれています。機体に行ってみると、英国の航空宇宙工学科を持つ大学所有機とわかりました。

主に大学院生の操縦工学用だと言い、パイロットの視点であらゆる操縦をこの機体で再現して学ぶための研究用機体だと聞きました。

Cranfield大学のSAAB340B

見本市としての展示会は日本でもありますので、ここでは地上展示機、飛行展示機を中心に、商談の場となる各企業の「シャレー」で記者発表会を取材に行きます。

初日は、ボーイング社においてデルタ航空からとANAからのオーダーのセレモニーがありました。航空ショーですので、実際に契約済の案件でもご祝儀のように発表されることがあります。

ANA HDGは片野坂会長参加で7月11日に発表したBoeing737-8と777X貨物機の発注セレモニーでした。

2日目には、ATRにおいてORCオリエンタルエアブリッジが発注したATR42-600型1機の契約覚書を交わしました。

コロナ禍先が見えない中でも世界の航空需要は戻っており、発注の現場を見ることができるのは刺激になります。

ファーンボロエアショーのハイライトは飛行展示です。エアショーは見本市ですから、飛ぶ商品である航空機を販売するのはやはり飛行している姿を見せることが一番です。

今回の飛行展示は、午後2時過ぎから4時前に掛けて毎日変わりますが、およそ10機(チーム)がアサインされていました。民間機では飛行順にエアバスA350-900、エンブラエルE190-E2、ボーイング777X、ボーイング737-10と4機が飛びました。全てメーカーのハウスカラーの機体です。

エアバスA350-900はボーイングほどの派手な離陸ではありませんが、見慣れた機材の飛行は見ていて安心感があります。

エアバスA350-900のフライト

エンブラエル機は小型機ならではの俊敏な性能を遺憾なく発揮。小さい飛行機が優雅に飛行し、大きく見える安定性を披露しました。

ボーイング777Xは変わらず派手な離陸と旋回で性能を発揮させていました。今回、着陸後の地上では主翼先端が折れ曲がる構造を良く見ることができました。今までこのようなシステムが無かったのが珍しいとでも言えるような自然な動きで稼働します。

ボーイング737-10は、米国での初飛行後初めての海外遠征飛行を行いました。小さい機体ながらロケットのような離陸は777Xにも負けません。777同様に機体底部に機体名が入っているので、判別しやすくていいですね。

Boeing737-10のフライト

民間機を背にロッキードマーチンF35ライトニングが飛ぶ様子も見ることができました。会場正面で空中停止して横移動する機動性を確認することができました。

F35のフライト

ショー開催中からあとのニュースでは、毎年エアバスとボーイングの受注競争の結果が話題になりますが、今年は盛り上がりませんでした。それと言うのも、世界的にはまだコロナ禍が収束していないこと。国際線の需要回復にはまだ時間がかかることなどが挙げられます。

熱波の気候変動を目の当たりにして、受注の数を競うよりも、持続可能性の高い機体の開発など環境性能に軸足が移ってきている転換期だと思えるエアショーでした。

Koji Kitajima(きたじま こうじ)


日系、外資エアライン計4社で30年以上勤務し、旅客、貨物業務を空港と営業のフィールドでオールマイティに経験しました。航空ジャーナリストとして世界の航空の現場を取材し、その内容をわかりやすく伝えます。航空旅行の楽しさを「空旅のススメ」ブログにて発信中。
航空ジャーナリスト協会に所属しています。

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