Aviation Journalist

航空ジャーナリスト 北島幸司


ANAの国際線新ブランド「Air Japan」を考えてみた

2022/03/17 航空会社

ANAホールディングスは3月8日、新しく中長距離国際線として就航する新ブランド「Air Japan」の立ち上げを発表しました。2020年秋に発表したコロナ禍を受けたビジネス・モデル変革計画で国際線の第3ブランドの誕生です。

機材は、ANAのボーイング787-8国際線初号機であるJA801Aを使用し、2023年度下期に成田空港を拠点にアジアの中距離国際線への進出を計画しています。

現在、ANAの一部の国際線運航を担う株式会社Air Japanの社名はそのまま残し、ロゴとブランド変更で新会社が立ち上がりました。今後は、同社のボーイング767運航を切り離し、787のみの運航体制を構築します。JALが作ったZIP Airのようにゼロからの出発ではなく、既にボーイング787の運航経験が豊富であり20年の歴史を持つAir Japanで事業内容変更ですので、スムーズな立ち上がりが予想されます。

社長の登壇

記者会見で登壇したAir Japan代表取締役社長の峯口秀喜(みねぐちひでき)氏は次のように語りました。「フルサービスでもLCCでも無い新しい形でこのAir Japanを運営して参ります。安全運航はANAの体制を取り込み、現行のAir Japanを残し2ブランドで進めていく日本で最初のエアラインになります。2023年後後半の就航で、顧客層のターゲットはまずアジアのInboundを想定し搭乗率80%を目指します」とのこと。

解説してみる

このニュースは多くのメディアで伝えられました。各社の告知内容は大きくは変わりません。そこでAviation World観光では、もう少し突っ込んだ内容でお知らせしたいと思います。

画像提供:ANAH

残念な部分1.社名

「Air Japan」と発表された時に、記者会見場に流れた空気は一瞬硬いものに感じました。それは、ピーチアビエーションを生み出したANAらしからぬ現行の社名をそのまま残すネーミングだからです。イメージ重視のエアラインでは名前が先行することは間違いありません。

画像提供:ANAH

残念な部分2.LCCではない

「フルサービスキャリアでもLCCでもない双方の良いところを組み合わせた全く新しい空の旅を創り出すことを目指す」と設立主旨が説明されています。非常に耳障りのいい言葉が並べられていますが、これが実は諸刃の剣であると思った方がいいと思います。世界では、エアラインのカテゴリーはフルサービスキャリアとLCCに分かれ、日本ではMCC(ミドルコストキャリア)も誕生しています。

世界のエアライン格付けでもカテゴリー分けをして表彰される訳ですから、そのどのカテゴリーにも入ることができなくなる危険性があります。日本では最後発のエアラインですので、良いとこ取りをしたくなるのは理解できるのですが、コンセプトは明確にするのがいいと思います。


残念な部分3.ZIP Airとの差が見えてこない

ベンチマークとなるJAL系LCCのZIP Airとの差が全く見えて来ません。使用機材はボーイング787-8で同じ、搭乗者数も同じ程度、就航路線も似通う可能性が大。就航が3年遅れる予定のAir Japanに「乗りたくなる」何かが見えて来ません。それはこれからに期待しましょう。

良い部分1.温かみのあるデザイン

世界的ブランディングメーカー「ランドー」のデザインは洗練されており、さすがとうならせてくれます。AirのrとJapanのJを組み合わせて手を差し伸べあうデザインにしているところも共感を得るでしょう。また、曙と藍の色の組み合わせは、コロナ禍明けの新生エアラインを象徴するような、夜明け前の力みなぎるパワーを感じさせた上に、上品であり個人的には好きな色合いです。

画像提供:ANAH

良い部分2.おもてなしを期待できる

ブランド・コンセプトは「Fly Thoughtful」です。Thoughtfulには気遣いや思いやり、やさしさといった意味があるので、日本人の細やかな気配りが盛り込まれたサービスが期待できます。曖昧な部分は今後もっとクリアになっていくことでしょう。

画像提供:ANAH

良い部分3.運航経験が長い

リブランド前のAir Japanは1990年に設立されており、20年以上の運航経験があり、安全面のノウハウも高いものがあります。その運航経験を引き継ぐことができるというのは大きな財産ではないでしょうか。

画像提供:ANAH

日本のLCCは10周年で次の段階へ

日本にLCCが誕生して10年。今回のAir Japanの誕生で和製LCCが短距離から長距離まで全6社が出揃ったことになります。

世界はコロナ禍で長距離LCCはことごとく大苦戦しています。ZIP Airへの対抗の為だけに設立したのであれば意味はありません。Air Japanが目指すのは世界の中の長距離LCCであり、早い段階で差別化の内容が見えてくるように期待したいものです。

Koji Kitajima(きたじま こうじ)


日系、外資エアライン計4社で30年以上勤務し、旅客、貨物業務を空港と営業のフィールドでオールマイティに経験しました。航空ジャーナリストとして世界の航空の現場を取材し、その内容をわかりやすく伝えます。航空旅行の楽しさを「空旅のススメ」ブログにて発信中。
航空ジャーナリスト協会に所属しています。

■プロフィール : https://airport.aviationworld.jp/koji-kitajima.html


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